大判例

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大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)280号 判決 1965年12月21日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

一、当事者の申立

(一)  控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

(二)  被控訴人は、「主文第一項同旨ならびに訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二、当事者の主張

当事者双方の主張は、

(一)  控訴人において、

(1)  本件手形は、控訴会社が、受取人欄は、後日訴外内山時雄が、控訴会社の注文にかかるボールトナツトの加工を完成した時に、控訴会社自から右訴外人名義をもつて補充完成し、その手形金を支払う約旨のもとに、これを右訴外人に寄託したにすぎないものであるが、また仮にそれが手形の振出になるとしても、受取人欄と裏書人欄に右訴外人名義の記載はなく、受取人欄は被控訴人名義になつているのであるから、それは裏書の連続を欠き、被控訴人は本件手形の適法な所持人とは言えない。

(2)  控訴会社と被控訴人とは何らの取引もなく、控訴会社は、被控訴人に対し何らの債務も負担していないのに、本件手形金を支払うとすれば、それは無原因給付となり、被控訴人は、これを不当に利得する結果になるから、控訴会社に本件手形金支払の義務はない。

と述べ、

(二)  被控訴人において、

(1)  本件手形は、控訴人の振出しにかかるものである。

(2)  控訴人主張の右各抗弁書は、いずれもこれを争う。

と述べ、

(三)  なお原判決二枚目表一二行目の初めから同裏一行目の終りまでを「被告が原告主張の如き約束手形を振出したことならびに原告が右手形の適法な所持人であることは否認する。」に、同裏三行目、同七行目、三枚目表六行目、同七行目に各「原告」とあるのを、いずれも「被告」とそれぞれ訂正する。

ほかは、すべて原判決事実摘示のとおりであるから、ここにその記載を引用する。

三、証拠関係(省略)

理由

一、受取人欄を除くその余の部分については成立に争いのない甲第一号証ならびに原審証人内川喜美栄の証言、原審における控訴会社代表者本人尋問の結果を総合すれば、控訴会社は訴外内山時雄にボールトナツトの加工を請負わせ、本件手形は、その代金三〇〇、〇〇〇円の支払担保のために、控訴会社の代表取締役岡沢真一が、受取人欄を除くその余の手形要件はすべて被控訴人主張どおりの約束手形の振出人欄に、自ら署名捺印して、右訴外人に交付したものであることを認めることができ、この事実に、甲第一号証の本件約束手形が原審第二回口頭弁論期日において被控訴本人から法廷に提出された事実を併せ考えれば、被控訴人は、右認定のように控訴会社が振出した手形を内山時雄から、直接か、または間接に、単なる引渡交付の方法によつて譲り受け、現にこれを適法に所持するものであるが、前記受取人欄は、右引渡交付の過程において、現実の手形当事者となつた者のうちの何人かが、被控訴人名義をもつて補充したものであることが推認される。

控訴人は、本件手形は、控訴会社が受取人欄は、後日訴外内山時雄が、控訴会社主張の加工を完成したときに、控訴会社自から右訴外人名義をもつて補充完成する約旨のもとに、右訴外人に寄託したものであり、また本件手形は、控訴人主張のように裏書の連続を欠くから、被控訴人は本件手形の適法な所持人ではない旨主張する。

しかし、たとえそれが、控訴人主張の如き約旨のもとに前記訴外人に交付されたものであつても、前段認定のように一度交付を受けた右訴外人が、当該手形を他に譲渡し、転々譲渡の途上において、右白地部分が現実の手形当事者となつた者によつて補充されたものと推認し得べき以上、このような手形を白地手形と呼称することの当否はしばらく措き、振出人たる控訴会社が、補充された手形要件の文言にしたがつてその手形責任を負うことには変りはないし(大審院大正一五年一二月一六日判決民集五巻八四一頁、最高裁昭和三一年七月二〇日判決民集一〇巻八号一〇二二頁参照)また受取人欄白地の場合は、たとえ手形振出行為の相手方たる内山時雄に対し補充権の付与がない場合でも、また補充の時期が未到来であるときでも、均しく手形法第一〇条が適用せられ、受取人欄補充前には、単なる引渡の方法により転々流通におかれることは、何らこれを妨げないものであるから、被控訴人が訴外内山時雄から、直接か、あるいは間接に、単なる引渡の方法によつて、本件手形を譲り受けて、現にこれを所持するものであり、しかも当初白地だつた受取人欄が、その流通途上において現実の手形当事者となつた者によつて、被控訴人名義に補充されたものと推認され得ること、前段認定の如くである以上、白地補充につき悪意または重過失の抗弁が成立する場合は別とし、被控訴人は、本件手形の適法な所持人として、右手形上の権利を行使し得るものと言うべきであるから、控訴人の右主張は、いずれも失当たるを免れない。

二、そこで以下控訴人主張の各抗弁について判断する。

(一)  まず控訴人は、控訴会社と被控訴人との間には何らの債権債務もないから、控訴会社に本件手形金の支払義務はなく、したがつてこれを支払うとすれば、被控訴人は右手形金相当額を不当に利得することになる旨抗弁するが、右抗弁の成立すべき当事者は、手形上の形式的記載を基準としてこれを決すべきものではなく、現実の権利移転関係に即してこれを判断確定すべきものと解すべきところ(大審院昭和七年五月三〇日判決民集一一巻一〇号一〇四五頁、最高裁昭和三四年八月一八日判決民集一三巻一〇号一二七五頁参照)、本件手形は、控訴会社から直接被控訴人宛に振出されたものではなく、換言すれば、

控訴会社と被控訴人は直接の手形当事者ではなく、被控訴人は、訴外内山時雄から、あるいは同人からさらに第三者の手を経て、本件手形を引渡によつて取得し、その所持人になつたものであること前段認定の如くである以上、控訴会社と被控訴人が直接の手形当事者であることを前提とする右抗弁は、その余の判断に及ぶまでもなく、失当たるを免れない。

(二)  そこで次に、訴外内山時雄の被控訴人に対する本件手形の交付は、控訴人主張の如き事情で権利の濫用であり、被控訴人はこれを知りながら本件手形を取得したものである旨の控訴人の抗弁について判断するに、この点については、当裁判所も原判決と同様、右抗弁は、到底これを採用し得ないものと考えざるを得ず、その理由はすべて原判決説示理由(原判決四枚目裏末行「証人内川喜美栄」以下から同五枚目裏六行目終りまで)のとおりであるから、ここにその記載を引用する。

(三)  さらに控訴人は、訴外内山時雄は、控訴人に対し、本件手形の見返りとして、控訴人主張の約束手形一通を振出しており、同人から本件手形金の請求をすると控訴人に右手形金請求債権をもつて相殺を主張されるので、本件手形を被控訴人に譲渡し、被控訴人また右事実を知りながら本件手形を取得するに至つたものである旨主張し、なるほど訴外内山時雄が控訴人に対し、控訴人主張どおりの約束手形一通を振出していることは、前記引用理由記載のとおりであるが、右内山時雄が控訴人主張の如き事由で本件手形を被控訴人に譲渡し、被控訴人また右事由を知りながらこれを取得したものであることについては、これを認めるに足る何らの証拠もないから、控訴人の右抗弁もまた到底これを容れることができない。

(四)  また控訴人は、被控訴人が本件手形金の請求をするためには、控訴人主張の如き事由から、訴外内山時雄との間の債権を確定することを要し、右債権確定判決のあるまでは、控訴人は被控訴人の本訴請求を拒み得る旨主張するが、被控訴人が本件手形の適法なる所持人であることさきに認定のとおりである以上、被控訴人が振出人の控訴人に本件手形金の請求をなし得るのは当然であり、それに先立つて内山時雄との債権を確定する要は毫もないから、控訴人の右抗弁もまたその主張自体失当たるを免れない。

三、以上説示の如く控訴人の各抗弁は、いずれもこれを容れるに由なく、なお被控訴人が本件手形を所定の支払期日に支払揚所に呈示して、その支払を求めたが、これを拒絶されたことは当事者間に争いのないところであるから、控訴人は、被控訴人に対し、本件手形金三〇〇、〇〇〇円とこれに対する本件訴状の副本が控訴人に送達された翌日であることが本件記録上明らかな昭和三九年五月九日から右完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、したがつてその履行を求める被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

四、よつて本件控訴は、民事訴訟法第三八四条によつてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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